天海春香について

 

 

 

 

 

天海春香とは、THE IDOLM@STERのメインヒロインである。

 

 

※微妙にアニメと劇場版のネタバレ入ってます。

 

 

元気で可愛く、いつも明るく。ちょっぴりドジなところもある女の子。歌も踊りも得意ではないけれど、アイドルに懸ける想いは誰にも負けない。

周囲を取り巻く個性的な十二人により、埋もれることなく輝く無個性であり、その存在が一つの"王道"となっている。

しかし、その在り方は二次創作物等々で言われている"覇道"に近い。

 

 

 

アニメ本編、及び劇場版で描かれている通り、彼女は関わったものを決して捨てようとしない。

20話で歌声を失った如月千早

劇場版で夢を諦めた矢吹可奈

そして23話で練習時間が取れずに四苦八苦していた765プロニューイヤーライブ。

彼女はその全てを残さず拾い上げて来た。流石メイン拾インと呼ばれるだけはある。なんでもない。

 

 

 

一見すると彼女の優しさ、献身性、自己犠牲の精神などが思い浮かぶが、私はここで声を大にして言いたい。

天海春香を動かしてきたものは、間違いなく彼女自身の"エゴ"である。

結果として彼女は全てを救う天使のような存在に描かれていると錯覚してしまうが、実際のところ彼女は十三の中でも一際貪欲な女の子なのだ。

 

 

 

勿論、天海春香に優しい心がないと言っているわけじゃあない。寧ろ優しさは有り余っているし、献身的でもあるし、自己犠牲の精神を持ち合わせていることも確かだろう。

しかし、それは側面に過ぎないと私は考える。

 

 

 

 

 

如月千早に手を差し伸べたのは、彼女と共に歌いたいと願ったから。

自分の仕事を止めてまでライブの練習時間を確保しようと試みたのは、みんなと離れたくない、置いて行かれたくないという思いからだ。

 

夢に敗れた矢吹可奈を引っ張り上げたのは、自らの夢を信じ続ける為。

矢吹可奈が自分と近い人間だという確信が持てずに動けなかった天海春香は、雨の日の電話でその思いを確信に変え、周りを巻き込み動き出した。

アイドルとは憧れであると天海春香は言った。その憧れは簡単に諦められるものではないと彼女は知っている。そして信じているからこそ、信じていたいからこそ、彼女を助け出した。

 

 

 

その後の台詞からも伺える通り、天海春香は自分と関わったものを何一つ切り捨てる気がない。

歌を失った友人も、繋がりが薄れた仲間も、夢を諦めた後輩でさえ、まるで自分の一部を形作るものかのように、必死で拾い上げる。

 

ひとりはみんなの為に、みんなはひとりの為に。

天海春香にとってのひとりとは、欠けてはならないみんなの一部であり、天海春香という人間ひとりを構成するのは、それを含めたみんななのである。

 

 

 

輝きの向こう側へ!で後輩たちが目指したのは自分の成功である。

自分のパフォーマンスが成功し、かつ全体のパフォーマンスも成功させる。各々が自分のパフォーマンスを成功させていれば、自然と全体の成功にも繋がるだろう。

だから、全体の成功を阻害する人間を、能力の低さから全体のパフォーマンスの質を落とす人間を排除することで問題を解決しようとした。

恣意的な書き方をしたが勘違いして欲しくないのは、わざわざ排除したわけではないということ。追いつけないなら切り捨てるしかない、当然の考えである。

 

しかし、天海春香はこれを是としなかった。

彼女にとっての全体とは、成功を約束された全体から、障害となる少数を取り除いた集団ではない。

障害となる人間も含めた全体であり、さらに言うならば、彼女の目指す成功は自分の成功ではなく全体の成功である。

 

1人の所為で全てが台無しになるリスクも厭わずに、誰よりも全のことを思っておきながら、その全に1人で立ち向かっていく。

率直に言って、優先順位がおかしいことになっているのだ。彼女にとっての一番はみんなであり、つまり一番は自分であって自分ではない。

その歪な在り方を支えるのが彼女の強靭な精神だ。24話で挫折してから1人で立ち直った姿から見ても、並の精神力ではない。

 

 

 

 

天海春香は自らを全として振る舞う。

自己表現の壁に押し潰されそうになった島村卯月とは違う。自分の役割など考えてもいない。だから劇場版で形式上のリーダーという役割を与えられた際には戸惑っていたわけだ。

全を自身と同一視しているが故に、常に全体のことを考え続けてきた。

いつでも彼女は彼女の為に、失敗や成功、葛藤、苦難障害全てを飲み込んできた。

 

天海春香が掲げる理想は、万人の抱くものではない。しかしそれは受け入れられないものでもない。

誰もが切望し、どうにもならないものを他人や環境の所為にして、頭の片隅に追いやった諦めの残滓だ。

天海春香は諦めない。それが一番正しいと信じて疑わない。決して折れずに、自分の考えだけを信じ続ける。

そして、その姿が人の心を動かす。

 

天海春香と同じ考えを持つ仲間は殆どいない。それでもみんなはついてくる。説得されたわけでも屈服させられたわけでもない。それぞれの意思を尊重した上で、彼女たちは天海春香をリーダーだと認めた。

それは彼女たちもまた、天海春香同様に夢を見ているからではないだろうか。

最良すらも認めず最高の結末だけを追いかける天海春香のその行先に。

 

 

 

天海春香は仲間の為なら常にハイリスクハイリターンな選択を取る。大失敗と紙一重の大成功を目指して、細い糸の上に身を置く。

誰よりも自分の為に貪欲に、全てを飲み込み続け、結果として仲間は須らく救うものだという考えに至っている。

彼女の救いは全て驚異的な自己満足のなせる業でありながら、そのことに自身が気付いていない。

誰よりも自分の欲望を優先した結果、誰よりも周りを優先する。そんなアンビバレンスで歪んだ存在こそが、天海春香だと私は考える。

 

 

そして、そんな彼女を支え、信じ合い、そんな彼女に引っ張られる仲間との絆。その美しさこそが、アニメアイドルマスターという作品の本質であると私は考えている。

 

 

そう、アニメアイドルマスターは、765プロという物語なのだ。